アイヌ遺骨返還請求訴訟

浦幌事件(北海道大学)

2014年5月27日、浦幌アイヌ協会(差間正樹会長、17人)が遺骨64体の返還などを求めて、北海道大学を提訴しました。

2017年3月22日遺骨返還請求訴訟・浦幌事件和解記者会見

アイヌ遺骨返還請求訴訟のうち、浦幌アイヌ協会が北海道大学に対して、浦幌町内から持ち出された遺骨の返還を求めた裁判の和解が2017年3月22日、成立しました。同日午後、札幌弁護士会館で原告団が開いた記者会見のもようです。

市川守弘弁護士

予定を5分経過してしまいましたが、始めます。初めに私のほうから今日のご報告をしたうえで、差間さんから話をしてもらいたいと思っています。本日ただいま、浦幌アイヌ協会が原告となって、浦幌町愛牛というところから盗掘──北大が発掘して持っていった遺骨についての返還に関する和解が成立しました。和解内容は、大きく2つあるんですが。個人の特定ができない遺骨について、今年(2017年)の6月1日以降、こちら(原告)が返還(受け入れ)の準備ができ次第、北大が浦幌町の公民館に持ってくる、という内容です。この、氏名が特定されない遺骨の数は、えーと、51足す12……63体です。それから、もうひとつ、これは和解なので向こうの言っている条件も呑んだんですが、氏名が特定可能な遺骨13体については、7月末日以降、北大がインターネットで公告をして、その結果、祭祀承継者が名乗り出ない場合には、こちら(原告)に来年以降、引き渡す。もし、祭祀承継者が名乗り出た場合は、こちら側・原告側と協議をする、という内容になっています。で、遺骨の数ですが、いま言いましたように、愛牛地区から本来(北海道大学「北海道大学医学部アイヌ人骨収蔵経緯に関する調査報告書」(2013年3月)によると)64体だったのが──(この訴訟では)64体について返還を求めていたのですが、(和解条項では)合計数が12体プラスになっています。これは、「発掘場所不明」なんですが、浦幌町内(から発掘されたもの)であることは間違いないみたいで、そこから発掘された遺骨。いつ(発掘が行なわれたの)かも不明です。目的も不明、というのが12体プラスされて、そのうち今回……だから51足す12で63体(の返還が決まり)、来年以降13体(の返還可能性がある)ということで、76体になりました。今まで64体って言っていたのが、76体に増えました、ということです。それから埋葬費用、2回に分けて埋葬するわけですが、埋葬費用については、今年引き渡しを受けた日から30日以内に支払ってもらう。その金額は116万2000円、これ(原告の)見積もり通りです。それから、遺骨の搬送費用については全額、北大側が負担する、という和解内容で、従来(杵臼訴訟、紋別訴訟)と同じ形になっています。という和解が本日成立しました。その他、浦幌では、今までと違って、かなりの副葬品が出てきています。これについても引き渡すと言うことになっています。後ほど、ちゃんと清書したやつをコピーしてお配りしたいとは思っています。私からは以上です。で、差間さん。

2017年3月22日遺骨返還請求訴訟・浦幌事件和解記者会見差間正樹・浦幌アイヌ協会会長

今回の和解については、この裁判の和解協議をリードしてくれた裁判長にまずお礼を言わさせていただきます。それと、遺骨返還につきましては、小川隆吉エカシ、城野口ユリフチ、この二人が開いてくれた道に私たちはついてきただけです。本当に小川隆吉エカシ、いまこちらにいらっしゃいますけれど、本当に尊敬しております。私たちは自分の土地から持って行かれた骨を自分の土地に戻したい。この思いでこの裁判に参加いたしました。祭祀承継者とか、そういった言葉は私たちの文化ではありません。私たちにはまったく馴染まない言葉です。私たちは先祖の骨は土の中に静かに眠っていただき、そのことによって、先祖は、神様の世界とわれわれの世界を行ったり来たりする。その静かな眠りを妨げるようなことはしてはならない。これが私たちの言い伝えです。北大の納骨堂の中に、まるで棚のようなところに、ずーっと放っておかれたこの遺骨を、これでやっと私たちの土地に返してもらう。私たちの土地に持って行って、安らかに眠っていただく。その道がこれでやっと開けました。この裁判につきましては、市川弁護士をはじめ、北大開示文書研究会のみなさん、いろいろな方たちに私たちを助けていただきました。そのおかげで今回に至ったわけです。この場を借りて本当に御礼を申し上げます。ありがとうございます。以上です。


記者

幹事社の毎日新聞のタカハシと言います。(対象とする遺骨数が)12体増えた、とおっしゃいましたが、それはどういう経緯だったのでしょうか。

市川弁護士

さっき(和解協議の場で被告に)聞いたんだけどねえ。よく分かんないんだわ。向こうもよく分かんないのかも知れないんですけど。「浦幌△番」と番号を振ってあるのしか、今まで北大の報告書でも、なかったんですが、「そのほか、箱に入っている骨を整理した」っていうんですよ。でも全身骨──(プラス12体は)全部、「全身骨」なんです。だから、一体そろってるヤツかなと思うんですけどもね。その数が、北大が前、文科省に報告した数に入っているのか入ってないのかは、ストレートに返事は来ませんでした。だから向こうもよく分かんないのか……。そこはよく分かりません。ちょっと(北海道大学に)聞いてみてください、北大の所蔵する遺骨の数が増えたのかどうか。少なくともこちらには、「全身骨12体」で、出土場所「浦幌町」、あとは一切不明……時期も、細かい場所も、(発掘)目的も不明ていうのが全身骨で12体。

記者

今回の対象になったのが76体ですよね?

市川弁護士

はい。向こう(被告)がまとめた別紙の遺骨数を計算すると、はっきり何体と分かるのが、64足す12。76体です。その他、(人数を)特定できない骨を入れた箱というのは、あります。箱数で94箱(後に訂正、正しくは95箱)ですから。ただその骨もね。しゃれこうべがくっついていないというだけで、何体分なのっていうのは、正確なところは分からないですね。だから最低で76体としか言いようがないですね。

記者

プラスされた12体ですけど、ほとんどの情報が失われた状態で、箱に「浦幌町」としか書いてないわけですよね、たぶん。

市川弁護士

うん、(現物を)見てないけど。

記者

それが本当に浦幌から出土したものかどうか、確認しなければいけないと思うんだけれども、それはできない、ってことですか?

市川弁護士

(原告側が)請求している以上の骨ですから、向こうがしっかり確認した上で。番号としてはね、「浦幌不明△番」になっています。それは今まで、そういう番号はなかったんですね。「あの報告書でははっきり分かっている数しか記載していません」ていう言い方を(被告が)していました。だから浦幌の箱があって、そこから全身骨12体が出てきたのかな、というふうに理解しています。それ以上、こちらは(確認する)すべもないし、「いらない」とは言えない。12体(新たに)ありましたというので、では引き受けましょう、ということです。


記者

差間さんにおうかがいしたいのですが、今のお話で、(当初想定の)64体分もそうなんですが、ほとんど重要な情報はすべて失われているという、非常にずさんな管理が今までされれてきたと思うんですよね。今回プラス12体がそのまた、はっきり分からないようなものが出てきたと言うことは、また新たなずさんさが明らかになった気がするんですけども、そのへんで、北大に対するご意見をいただけませんか。

差間さん

私たちの土地から骨を持って行くときは、まったく自分たちの都合で。頭蓋骨の形状を見て、その人の頭の形を見て民族的な優劣が決まるとか、まったく根拠のないような研究のために私たちの先祖の骨を持って行って。いま、北大をはじめ研究機関、各地の大学にある骨を「返してほしい」と言ったら、「祭祀承継者じゃなければダメ」だとかいろいろな条件をつけております。その管理の様子に至っては、私が初めて北大の建物(納骨堂)に行った時は(遺骨は)プラスチックの箱に入っておりました。北海道ウタリ協会の総会で、「工具箱じゃあるまいし、自分たちの先祖をそんな箱に収めておいて、本部はいったいどう思っているんだ?」と発言したことがありました。不思議なのは、次の年には全部、白木の箱に入れ直してありました……。大学は、何か違う価値観で動いているように思います。自分たちの先祖がそんな扱いを受けたらどうなるんだろう。今となっては、頭蓋骨と手足の骨とがまるで符合しないような形であったり、いったい何人分の骨があるやら、どこから掘り出したものやら、それもはっきりしないような形でこうやって保存してあった。まったく──腹が立つ以外のなにものでもないですね。自分たちの先祖がそんな扱いを受けたらどうなるか──? 今後、何とか全国の大学にも、研究機関にも、こんな状態を早く解消してほしい。今はそう思うばかりです。

市川弁護士

その点に関しては、まずは返還を最優先したうえで、情報をね。これについてはたぶん別途、開示請求を──もし(相手が)拒めば開示請求訴訟を、というふうには考えています。それは浦幌だけの問題ではなくて、北大が持っている遺骨全部に関する問題になっていくと思いますが、ヒラタさんがおっしゃったようなずさんな管理というか、情報が錯綜してよく分からないという問題については、開示請求訴訟なりなんなりを今後検討していくことになるだろうと思っています。

記者

それは、返還されて再埋葬が終わった遺骨に対しても?

市川弁護士

それとは別の問題としてね、埋葬は埋葬、返還は返還。それとは別に開示。ていうのはね、アメリカの法律では、1990年代の法律で、5年かけて、「誠実に」っていう言葉つきで、「徹底して調べなさい」と。それには、地元のトライブの人たちも参加させた上で、特定していって、特定できた遺骨については当該トライブに返還していくという仕組みができていて。日本では、文科省が(大学や研究機関に対して)「どのくらいの遺骨を持っていますか?」って調査させて、結果だけをこちらに周知する、(データは)文科省が持っているっていうだけなんだけど。その間の調査であがったあらゆる情報っていうのが、いままだ、闇の中なんですよ。だからそれは、浦幌(から持ち出した遺骨)に限らずね、明らかにしていく必要があるし、全国の大学についても明らかにしていかないと、まだまだ、遺骨を持って行った本当の実態ていうのは分からないだろうと思います。


記者

北海道新聞のムラタです。差間さん、6月以降、返還はどういった形で行なっていきたいとお考えですか。返還というか、再埋葬というか。

差間さん

私たちは浦幌アイヌ協会として「返してほしい」ということで、裁判に参加しました。今後は浦幌アイヌ協会でみんなで相談しながら、浦幌の土地に我々の先祖を埋葬するということで、みんなと相談しながら計画していきたいと思っております。

記者

具体的にどこどこに埋葬する、ってことは決まっているんですか?

差間さん

はい、自治体に協力いただきまして、浦幌墓園の中に区画を用意いたしました。

記者

それは何体分?

差間さん

今回は94箱分ですね。先祖の数で言うと63体分。

市川弁護士

2年分ね。来年分も入れて。……あ、ごめん、95箱でした。

記者

95箱、63体分……。

差間さん

いや、63体分は、箱数で言うと……

市川弁護士

83。今回は83箱。あ、ごめん、82箱。今回は82箱! で、来年以降が13箱。浦幌墓園を確保したから。

記者

要は、頭骨と一体になっていない分があるから95箱ということですね。

市川弁護士

前(和解協議で)、「箱数がこんなにあるの?」って言ったことがあるんですよ、その時は遺骨が増えたことは(被告は)言ってなくて。「何でこんなに増えてんの?」つったら、「(頭骨のない)骨だけの部分が何箱もあるから」という説明で、「なるほどね」と思ってたんだけど。(実は)それプラス、中には全身骨12体、増えちゃってる。


記者

今回、これまで返還された数としては最多だと思うんですけど、運送費用、再埋葬費用、いずれも北大側が負担することだと思うんですが、それぞれおいくらなんですか?

市川弁護士

再埋葬費用は墓地使用料を含めて116万2000円。運送費用は、それ聞かれると思っていたんだけど、見積もり書を相手に渡しちゃって……確か1回が67万~68万円だったと……霊柩車で運んでもらうんで、距離も遠いし結構な額に……ありがと、1回目で60万6000円で、2回目が18万……。でもこれに12体プラスされるので、ちょっと高くなるはずです。


記者

先日、コタンの会総会で、今後、北大に返還を、静内と東幌別、計約200体分、求めていくと決議されましたけども、この3つの訴訟で和解が成立したことにともなう、今後の方針への影響をどのようにとらえられていますか。

市川弁護士

道筋ができたんだよね。少なくとも北大との関係では道筋ができているし、だからその道筋にのっとって今後も継続して別の地域についてもやりませんか、という申し入れをする予定ではいます。ただ、コタンの会、僕はコタンの会の会員ではなくて、単に法律顧問団に過ぎないんでね。コタンの会が(遺骨返還要請を)決めたので、今度コタンの会と正式に、顧問団との間で、法的な今後の方向について話し合いをして、やっていくんですが、こちらとしては一定の和解の道筋ができているので、それにのっとって、というふうに考えています。じん肺とか肝炎(被害者救済)の大型訴訟で、だいたい道筋ができると、それにのっとって第二次第三次とやっていくでしょ、そういうふうに考えています。その時、訴訟を起こしたほうがいいと向こう(被告)が言うのか言わないのかは、向こうとの話いかんですよね。

記者

訴訟を起こさないほうがいいんですかね?

市川弁護士

いいんだけど、大学側は「裁判長の和解(勧告)で解決したい」と言うかもしれないので。そしたらとりあえず訴訟を起こして第1回期日で和解、というふうに……。

記者

なるほど、ではこちら側としては、そこは裁判にしない方向で協議を進めていきたい、と考えていると。

市川弁護士

そのほうが早いですよね。争うことより早い解決……。

記者

葛野さんにもお聞きしたいんですけど、静内からわざわざお越しになっているということで。これから交渉を市川さんがたと進めていく事になると思うんですが、どういった気持ちで交渉に臨んでいきたいとお考えでしょうか。

葛野次雄・コタンの会副代表

せんだって平取でも学習会があったんですが、若い人たち(はもちろん)、老人も含め、ね、(墓地が発掘を受け遺骨が持ち去られてから)80何年という歳月が流れ、かなり忘れ去られている部分がある。(そのせいで)血族がいない、血統がいない(という理由で返還が進んでいない)。内外を含め、2000体あまりの遺骨が何らかの形で研究されているというのは事実であり、私たちはそのことに目を向けていかなければならん、とわしは思うわけよ。シャモの人たちが、研究者の人たちがどういった形でアイヌの人骨を集めたのか、なんてことは、おれにしたらどうでもええんだ。やはり、アイヌの人たちが、先人があの北大の(納骨堂の)狭いとこでね……。わしらの風習・文化というのはね、母なる大地。大地から肉体を持ってきて、この大地に帰るというのがね、言葉なのよ。一日も早くそうしてやりたいもんだなと。法律的なことは法律家に任せる。わしらアイヌのものの考え方として、大地に一日も早く帰したい。そのことだけです。


記者

もう一個いいですか。フリーライターのヒラタですが。先ほどの質問で、失われてしまった情報、明らかになっていない情報を開示させるというお話でしたが、大学側にすれば、たとえば今回浦幌に返還した場合、その遺骨についてはもう責任がない、というふうに受け取る可能性がある気がするのですが。和解条項の中には、そういったものは入っているんですか?

市川弁護士

開示請求はね、別に関係ないんだよ。誰でもできるから。文書廃棄にならない限り、開示請求は誰でもできる。

記者

つまり、「(返還を済ませた)遺骨の管理というのはもう自分たちから離れた」とみて、それ(開示請求)に応じない可能性があるのでは、と思うのですが。

市川弁護士

その発想が僕、よく分からないんだけど。文書管理の文書があるはずなんだよね。あるとすれば。その文書は、今回返還することによって、ひょっとしたらそれで用済みになって、それから文書規定に従って、何年か後に廃棄処分になり得るんですよ。でもその間、文書を保有していれば、それは開示請求の対象になるでしょ。だから「(返還したから)関係ない」という議論はそこにはない。文書を保管して、廃棄処分の期日にならない以上は、開示義務がある。問題は、非開示事由があるかないか、ていう問題はある。そこでの争いにはなるでしょうね。管理を離れたかどうかじゃなくて、向こう(大学)が何を非開示理由にするかによる。

記者

廃棄されたらお終いだから急がないといけない?

市川弁護士

でも一番簡単なメモ書き程度の文書でもふつう(保存期間は)1年だからね。今回の文書は、そんな簡単な書類じゃなくて、他の文書と一緒になっていればなおさら、文書全体、ほかの返還していないものもあるから。のんびりやるって言ってるわけではないけど、だけど今日明日の問題ではないことははっきりしている。来年やったって、文書はあるはずですよ。開示請求すると、向こうはもう廃棄できなくなります、(開示か非開示かの)結論が出るまで。


記者

よろしいですか。小川エカシに……。この裁判、ひと段落したわけなんですけど、今後、この運動をどのように進めていきたいか、お考えをお聞かせください。

小川隆吉さん

あんね。3日前に平取(で学習会)があったんで。平取(から)は27体が持ち出されているので、ホントはね、本当は、上貫気別の6体を(返還させたい)と思っていたんだけれども、これに21体が加わってきたんで。これね、こういうね、地域の団体がちゃんとね、アピールしていってほしいし。今後はね、窓口一本化(大学が北海道アイヌ協会としか返還交渉を受け付けてこなかったこと)はこれで終わった! と思っているの。ここ、みんなそれ、書いてちょうだい! はい、終わった。


記者

浦幌からみなさんお越しなので、この和解について一言ずつ。今後どのように対応していきたいか、いかがですか。

市川弁護士

順番にひとことずつ。

Aさん

……。いかったっす。

Bさん

いかったっす。

Cさん

私たちの会の会長が、やっとの思いでここにたどりついたと思います。後は、私たち、会員の中で相談しながら、守っていきたいと思います。

Dさん

会長と一緒に頑張っていきます。

Eさん

……。みんなでがんばっていきます。

Fさん

……。

市川弁護士

だいたいいいですか? じゃみなさん、どうもありがとうございました。