北大開示文書研究会のシンポジウム・出前講座

シンポジウム「さまよえる遺骨たち Part2」

アイヌのお骨はアイヌのもとへ 遺骨返還訴訟と「象徴空間」計画

2012年9月14日(金曜)18:15~20:45

かでる2.7 1060会議室

パネルディスカション「アイヌのお骨はアイヌのもとに」

コーディネーター 殿平善彦さん(北大開示文書研究会共同代表)
パネリスト 清水裕二さん(北大開示文書研究会共同代表)、植木哲也さん(苫小牧駒澤大学教授)、市川守弘さん(弁護士)、榎森進さん(東北学院大学教授)

パネルディスカション「アイヌのお骨はアイヌのもとに」

【殿平さん】

さて、5人並んだパネリストのうち、すでに榎森さんはご講演いただきましたし、市川さん、清水さんからも報告がありましたので、まだお話になっていない植木さんに自己紹介をお願いしましょうか。

【植木さん】

私は、広い意味では人文科学分野も含めて、「研究者のあり方」「研究のあり方」はどうあるべきか、というのをテーマにしています。調べているうちにこのアイヌ墓地「発掘」という問題に行き当たって、じゃっかん勉強して発表したところ、小川隆吉さんが目に止めてくださって、北大開示文書研究会に参加させてもらえることになり、たいへん光栄に思っているところです。きょうは、すでにみなさんのご報告、ご講演で十分かと思いますが、少しお話しさせてもらえたらと思います。よろしくお願いします。

【殿平さん】

殿平善彦氏

私もこの北大開示文書研究会に最初から関わらせてもらって、共同代表の一人を務めています。長い間、朝鮮人の強制連行労働者の遺骨問題にご縁をいただいてきた者です。さて、先ほどの報告の中で市川さんは「お骨は財産だ」とおっしゃいました。法的にはそのように扱われてきたということですが、私はずっと勉強させていただきながら、「実はお骨はモノではない」と思うようになりました。お骨って命なんだな。あそこに宿っていた命があって、それが無残に否定的に扱われた事実があるとすれば、それを直視して、われわれはお骨に向き合わなければならない、ということだと私は思っています。

でも、どうも北大の人たちなんかは、お骨をモノだと思ってしまうところがあるらしくって、研究したくてしょうがないというところがあるんじゃないか。きょう、城野口さんや小川さんたち3名のみなさんが提訴されましたけれど、この中身は、私たち自身もほんとはよく分かっていないくらい、非常に深い、大事な問題を動かし始めたのではないか、という思いがしています。当事者もよく分からないくらい、北海道にとって、あるいは和人にとって、最も深くアイヌの人々にとって、そして人間の存在そのものにとって、根本的な問題が提起されつつある。そういう非常に大事なできごとが、提訴という形で、いま城野口さんや小川さんの心からの叫びをきちっとわれわれが受け止められるかどうか、これからなんだけれども。そういう出発点にわれわれは立ったのではないかと思っています。これは、より相互性のある、深みのある課題です。

すでにお三方にお話を聞かせていただきましたので、これを踏まえて、植木先生からまず、感想を含めてコメントいただけますか。

【植木さん】

植木哲也氏

お三方のお話に含まれている問題で、私自身が見過ごしてはいけないなと思うことに触れたいと思います。榎森先生のお話の中でもずいぶん出てきましたが、いま現在、「アイヌ政策推進会議」というところが「象徴空間」をつくるという話を政府で進めています。榎森先生のレジュメでも7ページの最後に書いてありますが、そこに遺骨を全部集約するという計画です。その「象徴空間」が、慰霊のための空間であると同時に研究のための空間であるという話になって、だんだんその「研究」のほうの比重が上がっていってるんではないかというお話でしたが、まさにその通りだと思うんです。

公式な建前上は「返還できるものは返還して、そうでないものを集約する」となっています。しかしその「返還が可能な遺骨」とは、どのくらいの可能性のことをいっているのか、注意しなければならないと思います。城野口さんや小川さんたちがきょう提訴に到った経緯は、まさに原告のみなさんが北海道大学に出向かれて「返してください」と言ったのに、返さないだけでなく、相手にもしてくれなかったわけです。「返せるものは返して、返せないものは研究に使わせていただきます」といっけん謙虚なことをいってるようにみえるんですけど、ひょっとすると事実上返せるものはほとんどない、すべてごっそり日本中の遺骨を一カ所に集約できるということになりそうな気配があるのです。

私も研究者なので同じ研究者のことをああだこうだというのは辛い面もあるんですけど、研究者から見れば、遺骨が全国各地の大学にバラバラに保管されていて、どこにどういうものがあるのかよく分からないっていうのは、研究材料としては非常に使いにくいんですね。ところが一カ所に集めて、しかも「これは慰霊を済ませたものだ」ということになれば、いわばある種の「みそぎ」が済んだものだから自由に使ってよい、という気持ちになれるんじゃないかと思います。研究者から見ると非常に、大喜びのことなんだと思います。つまり「返せるものは返す」というのをしっかり返してもらわないと、悪く言えば研究者の思うツボになるということです。そういう可能性が考えられます。

もうひとつ、私は研究者について研究するのが専門ですから、北大側のことで気づいたことをお話しします。本日の配付資料にも12~14ページにオーストラリアの先住民族返還政策を載せてあります。オーストラリア国立大学のテッサ・モーリス=スズキ先生のご協力、さらに京都大学の辛島理人先生の翻訳によるものですが、オーストラリアの先住民が遺骨や副葬品を返して欲しいと言ってきたときには、政府がこういうふうに協力します、ということが書かれています。この中身自体が日本の現状と相当隔たっています。日本政府はまだ返還に対して何もしていませんけど、オーストラリア政府は先住民の方々に協力するという姿勢を示している、という違いがあるわけです。あちらでは、先住民の遺骨や副葬品がどこに持ち去られているかというと、オーストラリア国内もありますが、大半はヨーロッパに持ち出されているんですね。特にたくさん行っている先はイギリスだと思います。それを「返せ」と迫られて、イギリスがどういう対応をしたか?

Contesting Human Remains in Museum Collections 

ちょうど一昨年に出た、TiffanyJenkins著の『Contesting Human Remains in Museum Collections: The Crisis of Cultural Authority』は、ここ数年の経緯をまとめた本です。厚い本で、私もまだちゃんとメモを取って読んではないんですけど、これによれば、イギリスでも1990年代からこのこと(返還問題)がかなり大きな問題になったんだそうです。はじめ、あちらの学者たちも「貴重な科学的資料だから返せない」「返したら科学の進歩が止まってしまう」という態度を取ります。

ところが2000年代になると、博物館の研究者たちが急に態度を変えてきた、とこの本には書いてあります。ヒューマン・リメインズ(人間の遺体)──中心は遺骨だと思いますが──は単なる科学的な対象物ではなくて、遺族の方々にとって特別なものであるから、研究が進む/進まないということより、もっと大切なものであって、積極的に返還すべきだと、遺骨を所有している博物館の科学者たちの側が動き出したそうなんです。それ以降、英国政府が返還について検討する委員会を作り、勧告を出します。返還に関わる手続き──ガイダンスがイギリスではすでに策定され、これに従って返しましょう、ということになりました。

Guidance for the Care of Human Remains in Museums 

こういったプロセスが進んだのは、ほかならない研究者自身が積極的に「返しましょう」と世論をリードしたおかげです。従来のイギリスの法律では、博物館の所蔵物を勝手に返したりするのが禁じられていたそうで、スムーズな返還を可能にするために法律の改正も同時に行なわれたようです。もちろん返すのも簡単ではなく、ケースバイケースで当事者同士がじっくり話し合って決めなさい、ということもガイダンスされています。これは英国政府のホームページでだれでもダウンロードできます。(Department for Culture, Media and Sport, Guidance for the Care of Human Remains in Museums)

このイギリスの例を参考にしますと、今の日本は、イギリスの1990年代前半くらいの状況だと言えます。科学者たちが「大切な資料だからとても返すわけにいかない」「返したら自分たちの研究ができなくなる」と言い張っている状況です。今後、イギリスのように「それはとても非人道的である」「積極的に返しましょう」という方向に行くか、それとも行かずに、遺骨を集約して完全に研究用の施設の中に全て閉じ込めてしまうか。これからその分かれ目に差しかかってくるわけです。私は、できることなら北大が古い考え方で通すより、新しい発想で遺骨返還に向けて積極的に動いていただければ、北海道に住んでいる人間として「北海道は立派な大学を擁している」と誇りに思えるようになると思いますが、それはこれからにかかっていると思います。

【殿平さん】

ありがとうございました。ぼくは、ある北大の研究者の方の発言を覚えています。日本はユニークにやろうとしているんだそうです。「世界は返還一辺倒だが、日本は慰霊と研究を両方やる」というんですね。「世界の研究者とは違う、日本のユニークなやり方だ」と。この発言にぼくは本当に驚きました。さて私たちは2月に、小川隆吉さんや城野口ユリさんと一緒に北大を訪れました。その時の模様を、一緒に共同代表をしてくださっている清水さんからご説明いただけますか。

【清水さん】

清水裕二氏

殿平さんから冒頭、さすがお坊さんらしい話がありましてね(笑)、心がぎゅーっとなりました。その中で、北大の者たちは骨を単にモノとしか考えていないというお話でした。返還することなど考えていなくて、さらに「慰霊だけでなくて研究も」と言ったんだとすれば、ますます私の身体の中はぎゅーっと怒りがこみ上げてくるわけです。

さて2月17日のことです。北大には1月の段階から「面談したい」「お会いして直接、遺族の方々に本当の話をしてほしい」とお願いをしていました。北大開示文書研究会としてもお願いして、遺族ご本人たちからの要請書も出して、お会いする約束ができてる、と思っていたのですが、ドタンバになって北大から「都合が悪いから会えません」「改めての日取りはいついつまでに云々」と手紙が来て、結局北大側には会う気がないんだと。それでも行かなきゃ、と出向いたわけです。

ところが建物の前に警備員が配置され、あの寒空、長い時間立たされて、問答を繰り返しました。しかしラチが明かず、外から事務室に携帯電話をかけて、やっと事務官ていうのかな、玄関から出てきたんですが、「無礼なことするんじゃないよ」「せめて玄関の中に入れなさいよ」と言って、やっと玄関に入れてくれました。しかしお年寄りの──といったら失礼だけど──城野口さんや隆吉さんが、足も痛い、腰も痛いって言ってるのに、椅子すら用意しない。上がり口の固い石の階段に城野口さんも座らざるを得ない。そういう対応をされて、黙っておれますか? 私もアイヌですよ。立派なアイヌですよ、私だって。こんなことやられてね、玄関先でぞんざいにあしらわれて、「話ができた、やあよかったよかった」だなんて、思うわけがないでしょう! こういう中で、これはもう訴えるしかない、闘わなければならないというふうになるのはね、当然のことなんですよ。もちろん、ご理解のある一般市民、道民のみなさんの力を得なかったら、裁判は闘い抜けないだろうと思います。

きょう訴状を出した後、記者会見をしました。私は北海道アイヌ協会の江別支部の支部長でもあるのですが、記者の皆さんから、こんな質問が出てました。「北海道アイヌ協会はどんな姿勢なんだろうか?」「支援してくれないのか?」という質問です。でも協会が何一つやるわけがありません。彼らは基本的に福祉団体であって、権利を主張する立場にないということです。先般の「副読本書き換え問題」の際も、真摯に取り組んでくれたとは私は思っていません。協会はその半面、白老に造られようとしている「象徴空間」には真剣に取り組んでいます。自分たちの大事な人権も先住権もほったらかしにして、そういうところに協力しようという団体に、私たちが北大を提訴した段階で、「何とか力を貸してくれ」だなんて一言だって言いたくありません。同じアイヌでありながら、そんな思いでいます。私が期待するのはここにいる美男美女のみなさん(笑)。みなさんのお力をぜひよろしくお願いします。

【殿平さん】

ありがとうございました。場内からも意見があれば聞きたいと思います。

【フロア(小川早苗さん)】

榎森先生のお話の中で、墓掘りのターゲットの中に副葬品もあったんじゃないかということですが、それはずいぶん以前から言われていました。『北海道百年史』という本の中に、アイヌの葬儀の様子の写真があり、遺体には着物を着せることなく、袖を通さずに上に置いてあるだけで、盗ろうと思えば盗れたと思うんです。私の本家でも、墓地改葬のおりにお墓の中から(副葬品の)タマサイや着物が無くなっていたのに気づいて、叔父が嘆き悲しんでいました。私たちの先祖は、(野生動物に)食われるために取られるならまだしも、骨を研究し、売って歩くために墓が掘られていたなんて。子どもたちや仲間たちにもしっかり伝えていきたいので、機会があったらまた教えて下さい。

パネルディスカション「アイヌのお骨はアイヌのもとに」

【フロア】

北大法学部の吉田邦彦と申します。この会場に北大の関係者の方も何人かお越しですけれど、おそらく現役では私くらいかなと思います。最初から非常に胸が痛みます。城野口さんはさっぽろ自由学校「遊」でも話して下さいました。小川さんもよく私の研究室に来られて語って下さいます。ほんとに涙なしではですね、ほんとに申し訳ないことを北大はしていると思うんですね。この会場には諸外国からの研究者もきていると思うんです。日本の北大のこの状況に対して、あっと驚いているんじゃないでしょうか。私も本当に情けない気持ちでいっぱいです。私の言いたいことのかなりはブックレットに書いておりますので縷々は述べません。

ひとつ、訴状をざっと見させていただいての感想ですけれども、シロウトの方から見ると、あるいは私にとっても、ねじれているんですね。すなわち一番の問題は盗掘でしょ? 過去の不正義でしょ? 集団的不法行為でしょう? それを民法709条以下の制度で問題にすべきなんですよ。城野口さんが「罰金」と言われたでしょう。民法はそういう制度を持っているんです。でも市川先生がそこんとこをスルッと避けておられるのは、必ず時効っていう制度があるから、相手方は援用するんですよ。でも援用しなきゃいいんですよ。過去の責任を請け負って、アイヌ政策を進めていくのが筋論なんですよ。そこができてないっていうのがまず大問題だと思うんですね。

それから今回の訴訟の危うさって、こういうことだと、ちょっと専門家的に言っちゃうとアレなんで、こういうことは知っておいてもらいたいと思うんですが、北大としては小利口なお役人は何を考えるか分かりますか? 北大の納骨堂の遺骨を白老に移そうと考えるんです。そうすればこの訴訟は空振りに終わる可能性があります。セットで申し上げたいのは、有識者懇談会のメンバーは補償あるいは所有権──市川先生は先住権とおっしゃってますけれども──それを侵害した、あるいは集団的不法行為をした補償問題を隠そうとするから、こういう問題を先送りしているわけですよね。しかし、それを直視して、遺骨の問題をどういう方法で償わなきゃいけないのか、ていうのをやらなきゃいけない。それができていない。

有識者懇談会や政策関係者は、こういうフィクションを取ろうとするわけですよ。アイヌの団体──北海道アイヌ協会──の人たちはみんな、自分たちの進める政策に賛同している、と。すでにトップ筋はみんな、白老に「象徴空間」を造って遺骨を集約することに賛成したではないか、という理屈を出してくるんです。それを道具に、必死になって進めるでしょう。それをみなさんが、ここにいらっしゃるアイヌ関係者の方が、下から声を出して「いや、これはアイヌ関係者の意見でもないし、同意も何もしてませんよ」という声を上げて、何とか白老への集約にストップをかけていかなきゃいけないと思っています。私に対する批判として、北大のメンバーが「同じ北大の禄を食んでいるヨシダが北大を批判するのはおかしい」というのがあります。しかし、笠谷和比古という先生が「押し込めの思想」ということを言っておられます。「日本的な良い組織っていうのは、トップダウンじゃなくて、主君が悪いことをしたら下から批判して修正していく組織だ」と。アイヌ協会もいま、危機だと思うんです。何とか健全な形で下からの批判にトップ筋が耳を傾けて、「象徴空間とこの問題は別物」という形で、この政策をストップさせて、少なくとも集約の部分はストップさせないと、大変なことになる。博物館をつくるというなら、「過去の不正義」をターゲットにする博物館づくりをそろそろしないと。諸外国はみんなそういうことをやっているんです。

【殿平さん】

市川先生に今の話に続いて、お願いします。

【市川さん】

市川守弘氏

訴状の話が出たので、言いますね。吉田先生は「不法行為に基づいて云々」というお話をされました。だけど、不法行為(を根拠にした訴え)では「モノを返せ」という請求は出てこないんです。あくまで損害賠償です。原告のみなさんが望んでいるのはまず「骨を返せ」ということ。返せと言う主体(自分)に骨を持つ権限──所有権など──があるのに、だれかさん(相手方)がそのものを持っている、だから返しなさい、ということです。そのさい、相手が「正当な権限に基づいて持っている」と主張して立証できなければ、「返しなさい」という判決が出るんです。

「正当な権限がないだろう」ということで、盗掘問題(の吟味)はありえるでしょう。ただし、盗掘があったかどうかについては、はっきり立証するものは、現時点ではない。こっちが言う必要もない。こっちは権限がある、しかしモノはあなたが持っている、持っている権限をあなたが主張して立証できない限り、それはこっちに返しなさい、という話になる。不法行為(盗掘問題)を積極主張してもいいんですけど、その場合、損害賠償となれば時効の問題もありえます。先生、北大の先生なんですから、北大の学内で、北大は時効主張は絶対にしないように意思統一していただければ(笑)、私は大いに「盗んだんだから100年後であろうと賠償しろ」と言いたいと思います。

もうひとつの考え方として、遺骨がないときに城野口さんたちが日々──和人もそうです──、遺骨のないお墓に行って供養できますか、ということなんです。たぶん遺骨がなければ、それはどこか間が抜けたものになって、本当の自分の宗教心は満たされないと思います。つまりこれは宗教上の行為、信仰の自由の侵害なんですよ。分かります? 遺骨があって初めて、自分の宗教が全うできる。城野口さんも小川さんもみんなそうだと思うんです。それを日々、遺骨を返してくれないことによって侵害されてるわけだから、それについての慰謝料請求。信教の自由を侵害するという行為に対しての慰謝料請求はやっていきます。今後、向こう(被告)がどういう形で主張・立証してくるかは、分かりません。その時に「あんた盗んだんじゃないの? 盗んだ以外考えられないよ」よいう主張はこっちもします。損害賠償でもぜひ、先生、北大で頑張っていただければと思います(笑)。

【フロア(城野口ユリさん)】

ひとつ聞きたいんですけど、白老に「慰霊施設」を建てて北大の遺骨を集めるのを認めるって、北海道アイヌ協会は総会か何かで決議したんですか? 何も私は聞いてませんよ? 遺骨のことを聞いても、北大からは「アイヌ協会通して来たか」って言われたって? じゃあ「あんたたちね、アイヌ協会通して(墓を)掘ったのか?」って。私は真実を訴えているんですよ。アイヌ協会の理事長が(施設建設に賛同する)返事したからって、あの理事長のモノかい? 私は私のコタンに返してもらいたい。

【殿平さん】

時間がなくなりました。あと3分くらい。最後に榎森先生、ひとことお願いします。

【榎森さん】

榎森進氏

さきほどちょっと言い忘れたことを。幕末の盗掘事件の解決の仕方のなかで見えてくるのは、相手は外国、イギリスなんですが、その時、時代はまだ江戸時代です。だから江戸幕府の役人がイギリスの領事、あるいは公使と交渉しながら返還を求めていくわけです。先ほども言ったように、江戸時代の村というのは、何か起きた時にその責任は全部、村役人が負う仕組みです。補償金なり、賠償金なりを受け取る場合も、村役人が代表者として受け取り、そのうえで構成員の人たちに返していくという順序です。

盗掘された森村も基本は同じで、江戸時代の本州と同じような組織になっていました。村年寄りとか名主とか、村役人が全て媒介してすべて処理してきたわけです。しかし記録を読んでいる限り、この盗掘事件の時に限っては、そういう手順を踏んでいない。賠償金は盗掘を受けたアイヌの人たちにストレートに渡されています。村役人はあくまでその付添人に過ぎない、そういう立場なんです。つまり江戸時代でさえも、というのもおかしいかも知れませんが、日本的な位置づけの森村の中にアイヌの人たちがたくさん住んでいるコタンという社会があって、アイヌ社会のアイヌの人たちのお墓がやられた時に、和人の村役人が前面に出てきたわけではなかったんです。これが私は非常に大切なことだと思います。

【殿平さん】

ありがとうございました。もっと論議したいし、聞きたい話もあると思うのですが、時間がないんです。どうもすみません。アイヌのお骨は、北大に限らず、1500体もあるお骨を全部まずいっぺん、アイヌに返すべきなんですね。そのうえで、そのお骨をどうするかはアイヌ自身が決めるのであって、「返して欲しい人には返しますよ」と北大が言うのは、これはまやかしです。まず全部、北大なり国の責任でお骨を返す、というところから始めるべきだと思います。

【フロア】

その前に、謝罪でしょう?

【殿平さん】

全くその通りだと思います。きちんと謝罪して、返してもらいたいですね。最後にこの集会の決議文案があります。これをぜひやっておかなくてはなりません。北大の総長あての文書をお配りしているので、ご覧になって下さい。(朗読)(拍手)

ありがとうございます。参加者一同の決議としてこれを北大に出します。政府への要請文もよろしいですか。(拍手)では政府へも出します。ちょうど時間になりました。パネルディスカッションはこれで終わります。どうもありがとうございました。


記録と構成 平田剛士(北大開示文書研究会)


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