北大開示文書研究会のシンポジウム・出前講座

シンポジウム さまよえる遺骨たち

 2011年6月10日

パネルディスカション「さまよえる遺骨たち」

パネリスト

コーディネーター 殿平善彦さん(北大開示文書研究会)
パネリスト 豊岡征則さん(北海道アイヌ協会)、城野口ユリさん(少数民族懇談会)、小川隆吉さん(アイヌ長老会議)、植木哲也さん(苫小牧駒澤大学)、清水裕二さん(北大開示文書研究会)※順不同


殿平善彦さん

殿平善彦さん  

私は、浄土真宗本願寺派の住職をしている殿平善彦と申します。「強制連行・強制労働を考える北海道フォーラム」の活動に携わって、北海道で強制労働させられた朝鮮人の方たちの遺骨問題に取り組んできました。朝鮮・韓国、それに中国の方々とともに、道内で埋もれたままになっている遺骨を掘り起こしてご遺族に返還し、またその事実を明らかにするという活動です。同じように、研究の名のもとに行なわれたこのアイヌ墓地「発掘」問題にも、根本的な意味で(和人社会に)大きな責任があると感じています。これは単に歴史を振り返ると言うだけでなく、現代の私たちに直結している問題であって、これから何を考え、どうすべきか、きちんと答えを出さなければならないと思っています。ここに5人のパネリストのみなさんに並んでいただきました。会場からのご意見やご感想も伺いながらすすめたいと思いますが、まず豊岡征則さん。前半の証言や講演をお聞きになって、いま感じていらっしゃることをお話しください。

豊岡征則さん

豊岡正則さん

エチ・イランカラプテー。私は昨年5月から、北海道アイヌ協会の副理事長を重責を担っています。これまで長い間、アイヌ文化のことを手探り状態で勉強してきました。でも残念ながらこの人骨問題については全く不勉強でした。当時、海馬沢博さんからお話だけは聞いていたのですが、深く関わることはなかったのです。ですからお役に立てるか分かりませんが、私の学んできたアイヌ民族の死生観、アイヌ文化の観点からこれがどういう問題をはらんでいるのか、述べさせてもらえたら、と思います。ただ、私の話すことはアイヌ協会の総意というわけではなく、アイヌ文化を学んできた個人としての言葉として受け取ってください。

殿平さん

ありがとうございます。さて前半でご証言くださった城野口さん、隆吉さん、何か付け加えたいことは?

城野口ユリさん

繰り返すようですけれど、アイヌの人だけでは、この問題は解決できないんです。和人のやったことなんだから、やっぱり和人の人がたに少しでも目を向けてもらって、解決できるまで、力を貸してもらいたいんです。亡くなった母親や祖母から聞いた光景が目に浮かぶんです。私も80近いんですけど、これから私が死んで、親やおばあさんのところに行ったとき、「かたきをとってやったよ」と伝えて喜ばせたいんです。お骨を返してもらって、きちんと(故郷のお墓に)納めたいというのが、私ばかりでなく、アイヌの遺族の願いだと思います。どうぞ知恵を貸してもらいたいし、お力添えをお願いします。

小川隆吉さん

この北大人骨問題は、私の開示請求によって、総務省にまで伝わっているはず。北大の総長はアイヌに対して謝罪して欲しい。日本の総理大臣にもそう求めたい。北海道の「開発」とは何だったか。アイヌ民族は文化を禁じられた。もうどんなことをしても時間を元に戻すのは難しい。でもこの遺骨問題は、もう一度事件として扱い直して欲しい。そう政府に求めます。

フロア(沢井アクさん)

2点ほど質問があります。植木さんが「児玉コレクション」が2つあるとおっしゃいましたが、詳しく説明いただけますか。また城野口さんが「お骨の洗浄は絶対反対」とおっしゃった理由は何ですか。

植木哲也さん

2つの「児玉コレクション」の関係について、正確なことは分かりません。ある時点まで、児玉作左衛門がアイヌ墓地から発掘してきた副葬品などを指して「児玉コレクション」と呼んでいたのは事実です。その後、ある段階から、函館と白老の博物館に、初め児玉家から寄託され、後に寄贈されたものが、「児玉コレクション」と称されるようになったのです。同じ「児玉コレクション」と呼ぶのであれば、両者がどんな関係にあるのか、きちんと明示すべきではないかと思います。

城野口さん

元の場所の土やほこりが、お骨に少しでも付いているんではないかと思うんです。血のつながった親子の情愛というのかな、それを示すのに、そんな元の土地の土・ほこりの付いたままのお骨を戻してあげたいと思っています。人間としての愛情です。

会場の様子

フロア(石井ポンペさん)

 2月に、東京のある学会で、大きなスクリーンにアイヌの人骨の写真が映し出され、このアイヌは病気だった、そのせいで脊椎が固まってしまったんだ、と解説される場面があったんです。私は思わず「泥棒、ちゃんとアイヌのコタンにそれを返せ」と言ってしまったんですが。今年1月の新聞で、北大で新たに27の骨箱が見つかったと報道されたので、私、佐伯学長に何度か面談を申し入れたんです。しかし面会もかなわず、(事務局との)やりとりの中であちらは「私たちはアイヌ協会としか話さない」と、こう言うんです。だったらアイヌ協会には、このお骨の問題をしっかり北大と交渉してもらいたいと思うんです。

殿平さん

じつは私たち「北大開示文書研究会」も、北大に自ら事実を解明してほしいと申し入れをしましたけれど、一切回答はありません。「北海道大学は人骨問題を含め、一切をアイヌ協会とのみ話をします。もし意見があるなら、アイヌ協会に話をしてください」というのです。

城野口さん

北大が、今さらそんなこというのはおかしいでしょう。教授たちがアイヌ墓地を掘って人骨を持ち出した時代、すでに協会はあったでしょう?(北海道ウタリ協会は1946年設立)だったらなぜ当時、墓地を掘る前に、協会に話を通そうとしなかったのでしょう。何十年も経って、いまさら「アイヌ協会を通せ」だなんて勝手じゃないですか。みなさん、どう思いますか。

殿平さん

全くその通りです。今回、この問題について、北大からアイヌ協会のほうへ話がいったわけですが、その際には北大側から「アイヌ協会だけを窓口にする」とは、一言もアイヌ協会側に伝えられていないのです。

フロア(加藤多一さん)

具体的な提案ですけど、きょうの参加者みんなで、決議のような形で、アイヌ協会はきちんと交渉しなさいと、メッセージを出すべきではないでしょうか。わたしは和人ですから、城野口さんの悔しさのほんの少ししか理解できていないと思うけれど、城野口さんがさきほど、そんな和人に対しても、一緒に闘ってほしいと言ってくださったので、ぜひ仲間に入れてほしいのです。

清水さん

これはアイヌの問題、シャモの問題というより、大きな国民的課題だという認識に立って、一緒に闘いたいということを、改めて申し上げたい。北大とアイヌ協会との最近のやりとりで、北大側から「今あるお骨を洗浄したい」という申し入れがあったんです。でももし洗浄して付着物が失われてしまったら、どこの土地から出たお骨か、分からなくなってしまう危険があるでしょう? それはぜったい阻止しなくてはいけない。城野口さんがおっしゃったように、遺族はお骨をふるさとに、もとのお墓のあった場所に戻してほしいんです。私は日本社会教育学会員として、今月開かれた大会会場でもこの遺骨問題についても話してきました。隆吉さんが言われたように、まず政府がこの問題についてきちんと謝罪せよ、(先住民遺骨や副葬品の返還を始めている)オーストラリアやカナダなどの政府を見習ったらどうか、と発言してきました。私は実際に体験しているんです。小学校5~6年生だったころでしょうか、でっかいコンパスみたいなので身体のサイズを測られたことがあります。教室で一部の子どもだけ残され、裸になれと言われたんです。何されたと思います? 「背中を見せろ」と命じられ、定規を当てて「何センチ四方に毛が何本」とやられたんです! こういうことを彼がたはやってたんですよ。国際的には、そういう人類学の名のもとに先住民族から収集したものをいま、先住民側に返還する流れになってきています。つい先日の朝日新聞もこうして特集しているんです(「文化財はだれのものか」『朝日新聞グローブ』2011年6月5日発行号)。アメリカだってカナダだって、実際の交渉が進んでいます。なぜ日本政府ができないのか。先の学会発表でもこのことを取りあげ、、わたしは「日本ほど人権後進国はない」と指摘しました。少しひんしゅくを買いましたがね。参加者は大学の先生方ばかり。「そこまでひどくない」という声もありました。そんな人が多いのです。

殿平さん

アイヌ協会の名前が出ましたが、豊岡さん、コメントいただけますか。

豊岡さん

北海道アイヌ協会でこれまで、これらの問題を深く議論してきたわけではありませんが、協会がアイヌ民族の一番大きな組織であることは確かですし、いずれにせよ今後、決して無責任な形ではやらない、ということは申し上げます。私個人としては、じいちゃん、ばあちゃんからいろいろ聞いてきたアイヌの精神性からみて、墓を発掘するだなんて、とても考えられないことです。いま北大にある人骨などは、個人的な希望としては、まず身元をしっかり調査をして遺族に返す、もし遺族が見つからないなど引き取り手がない場合は、その土地の協会支部や自治体とも相談しながら、お骨の方が生まれ育ち、亡くなったその土地の土に返すのが望ましいと考えます。政府のアイヌ政策推進会議の議論の中で、これから新設する「象徴空間」に、収集した遺骨を集めるという意見もちらほらとあるようです。私個人としては、それはいかがなものか、というのが基本的な考えです。なぜそう思うのか。わたしは、阿寒湖畔アイヌコタンで、86歳くらいで亡くなった小鳥サワさんというおばあちゃんから、こんなことを聞いているんです。そのおばあちゃんが子どもだったころ、イオマンテ(熊送りの儀式)があったそうです。ところがその最中に、祭司のエカシが突然、カムイノミ(祈り)をやめてしまった。ふつうなら考えられない異常事態です。なぜそんなことが起きたかというと、送る熊の子に片手が無いことにエカシが気づいたからでした。これではカムイの国に送った後、熊は生活していけない、ましてやこの世に戻ってこられるはずがない、カムイが非常に怒っている、とエカシが告げて、一同騒然となったというのです。それがアイヌの考え方なのです。だからこそ遺骨は元の場所に戻すのが一番だと思うのです。城野口さんが先ほど「これはシャモの問題だ」とおっしゃっていました。私もそう思います。よく新聞などでは「アイヌ問題」と書かれることがありますが、何かアイヌが問題を起こしているというような錯覚を与える側面があると思うのです。こうした日本の(学問の名のもとに先住民族の人権を侵害してきたことの)歴史をしっかり検証することができていたら、アイヌの民族問題など起こらなかったんです。だからこそ、和人側=多数者のみなさん方にぜひ、国際社会に通用する人道的な立場から真剣に考えていただきたい。民主主義には「多勢に無勢」という側面があります。少数派のわれわれがいくら正論を言っても、多数派にはなかなか通用しないのです。正論が通用する社会に向けて、みなさんのご協力をお願いしたいと思います。

殿平さん

どうもありがとうございました。最後にこの文章(政府と北大に対する要請文)を読み上げたいと思います。これからもこの課題を、みなさんとともに追求していきたい。問題解決のためにいっしょに歩みたいと思います。どうぞよろしくお願いします。きょうはどうもありがとうございました。


日本政府への要請文

北海道大学への要請文


記録と構成 平田剛士(北大開示文書研究会)