裁判の記録

ラポロアイヌネイション

閉廷後に記者会見するラポロアイヌネイション原告・弁護団。2020年12月17日午後、北海道高等学校教職員センターで。


第2回口頭弁論閉廷後の記者会見・報告会の記録

2020年12月17日(木曜)、北海道高等学校教職員センター

市川守弘弁護士(原告弁護団長)
今日の裁判では、前回の第1回口頭弁論で「主張は次回する」と言っていた被告側から、準備書面が出てきました。ところがその主張の中身は、こちらが訴状に書いたことについては、すべて「認否の限りにあらず」、つまり、(訴状にある)そういう事実を認めるか認めないか、いっさい答えませんでした。(被告が準備書面に)何を書いてきたかというと、現行法である漁業法とか水産資源保護法とか道条例とかの解説文を出してきた、ということです。そして最後に、原告に対して、「サケ捕獲権ていうのは現行法上の何を根拠とするのかを明らかにしろ」という釈明を求めてきた、ということです。これは何を意味しているかというと、今日(法廷で)僕も言いましたけれども、こちらの権利の主張っていうのは、「江戸時代まで各アイヌの集団=コタンが独占的・排他的な漁猟区域を持って、そこで独占的に漁猟権を有していた、それは講学的には先住権というなかのひとつです──」ということ。訴状の中に書いてあります。「その権利・権限を、現代において、原告が依然、有している」という主張をしているんですが、そもそも江戸時代に(各コタンが)持っていたそういう権利について、まず(被告が)認めるのか、それとも認めないのか。認めたうえで、明治以降それが無くなった、という主張なのか。そこがまったくあいまいで、何も認否していない、触れていないんですね。(被告からの求釈明について)こちらとしては、その歴史について次回までにさらに詳細に主張していきたいと思います。訴状ではかいつまんだ要点しか整理していなかったので、江戸時代に(各コタンが)どういうふうに、どういう権利を持っていたのか、さらに具体的に主張していきたい。それについて、(被告が)また「認否をしない」となるとね、訴訟が止まっちゃうので、ちゃんと認否するように(裁判長から被告に指揮してください)と言いました。国側は、こちらの言っている「(各コタンが)江戸時代に持っていた権利」があるのかないのか一切不問に付したまま、「現行法では認められていません」、それしか言っていないんだよね。論点をずらそうとしている。こちらとしては、ものすごく大きな出来事として、明治維新の直後に土地が奪われ、サケ捕獲権を含むさまざまな自然資源に対する権利が奪われていった、その事実を認めるのか認めないのか、それとも何か正当な根拠があったのかなかったのか、それは国側が答えるべき義務だというふうに思っています。それに触れたがらない国に対して、次回、さらに詳細な主張をしたいと思っています。(被告は)ようするに論点をすり替えてきている、それをすり替えさせないように次回までにまた工夫していきたい、ということです。

差間正樹・ラポロアイヌネイション名誉会長
私の今日の主張は、私たちの先祖が十勝川の河口域でサケを獲っていた、そのことに触れて、それで私たちも、同じように十勝川の河口域でサケを漁獲したい、私たちの生活のために、サケの捕獲を権利として認めてほしい、という主張をしたわけです。


フロア
北海道新聞の角田と申します。弁護団に質問します。相手側の求釈明に対して、どのように答えていく予定でしょうか。

市川守弘弁護士
求釈明は、「(ラポロアイヌネイションが浦幌十勝川河口域でのサケ漁の権利を有するとする)現行法上の根拠を示せ」だから、「そんなものはないよ」という回答はするつもりです。だって、江戸時代にあった権利が、その後、認められなくなったのだから、今の法律、戦後にできた漁業法や水産資源保護法といった法律に(先住権の)根拠があるはずはない。だよね? 問題は、江戸時代まであった権利を認めるのか。認めたら、それがなぜなくなったのか。それを明らかにさせようと思っているので。求釈明に対しては、現行法上に位置づけられるものではない、という程度のことは書くだろうなと思いますが、今後、弁護団で細かい打ち合わせをしながら、準備します。


フロア
今回、訴状の大部分を割いて説明してある事実関係について、国側は「認否の限りでない」という一言で済ましていますが、そんな国の姿勢について思うところがあれば。

差間正樹さん
北海道はもともと私たちの先祖が住んでいた土地です。だから、イウォルっていうんですけど、生活する範囲、領域を認めてほしいということですね。私たちは十勝川の河口域に住んでいるんで、十勝川の河口域には私たちの領域があるんだよってことを、なんとか国に認めてほしいと思っております。それだけです。

フロア
国が「認否の限りでない」というだけの答えを返してきたことに対しては、どのようにお感じですか?

差間正樹さん
まあ、私たちはこれを主張していくしかないんで。国が何と言おうと、私たちにはサケを獲る権利があるんだということを要求していくだけですね。

市川守弘弁護士
今回の被告=国の対応は、ある意味、想定内なんです。もし認否して、被告がこの訴訟に真摯に対応しようとすれば、150年の歴史をどうみるか、場合によったらそれ(従来の史観)をひっくり返すかっていう問題なので。おそらく(被告代理人を務める)訟務検事独自では答えられないだろうし。内閣官房がどう判断するのかに関わってくるのでね。そう簡単には(認否を)できないだろう。だけど、ここで逃がさないで、150年の、明治以降の歴史について、国にちゃんとした認識を明らかにさせたい。認識は持っているはずですよ。今まで「有識者懇」とか、北大のいろんな学者の人が書くのは、それ(アイヌの先住権)は明治以前にあったけれども、なんか自然になくなったかのように記述されていて。いきなり北海道旧土人保護法(1899~1997)の問題にいくわけですよ。旧土法はまったく関係ない。問題は、明治初年のころ、何があったのか、そこが問題だから。ようは侵略かどうかってことです。それをいま、国に突きつけているところだから、国はそう簡単には答えられないし、なるべく答えないで逃げたい。それを逃がさないで、こっちがどうやってシッポをつかむか、そのせめぎあいなんです。「認否の限りにあらず」ってのは、予想通りというところもないわけではない。


フロア
共同通信です。原告側の求める判断をする時、裁判所としては、どういった法律上の裏付けで(権利を)認めるということになるでしょう?

市川守弘弁護士
権利っていうのは、「何か法律があるから」あるいは「憲法があるから」といって認められるものじゃないんですよ。権利(の根拠)っていうのは、歴史の中で、その権利行使が尊重すべきものとして認められているかどうか、なんですよ。日本の、特に法学研究者が悪いんだけど、常にまず「○○権」があるかないかを議論していくわけ。これは日本独特のやり方なんです。たとえば原発訴訟なんかでも、まず「人格権があります」と言った上で「再稼働差し止め」を求める形がとられている。まずその権利があるかないかを議論するっていうのが、日本独特の法学者のとらえ方だけど、その考え方じゃなくて、歴史的事実として「何があったのか」「どういう権利行使をしていたのか」(を議論すべき)。それが尊重されるべきもので、いまそれがないというなら、どうしてなくなったのか。なくなった過程に正当性があるのかないのか。これを問うんですよ。世界ではそういう問い方をして、たとえば「先住民族の権利に関する国連宣言」の中で、「そうだよね、土地や自然資源に対する権利を先住民族は持っていますね」と規定されているわけ。あれも、宣言があるから権利が生まれたわけじゃない。宣言があろうがなかろうが、もともと権利はあったんです。宣言はその権利を「やっぱりそうだよね」と確認しただけなんです。(この訴訟では)そういう問いかけをしたいと思っています。欧米、特にアメリカではそういう問いかけの仕方は当然のことなんだけれども、日本の法学者、裁判所の人たちにどうやってそのような帰納法的な論理の組み立てを理解してもらうか、というところが問われています。だから(原告は)法律とか憲法に規定されている権利を一生懸命探して見つけるという作業は、しません。質問に対する答えになってる?


フロア
向こう(被告)が「江戸時代には(コタンに)そういった権利があった」と認めると、それが糸口になり、そこから「なぜそれがなくなったのか」を立証する責任が向こうに出てくる、ということですね?

市川守弘弁護士
そうです。それが、向こう(被告)側が「侵略」を正当化できる理由になるはずなんです。土地もそうでしょう。自然資源も。だって江戸時代は(蝦夷地は日本にとって)外国なんだから。異なる地域、「異域」「化外の地」なんだから。それがなんでいきなり日本国内に入っちゃったの? そこを問う裁判なんですよ。向こうがどういう主張をしてくるのか……。だから大変でしょう。150年の歴史を、場合によってはひっくり返すような主張、あるいは裁判所の判断が出てくる可能性があるわけだから。向こうもすごい慎重です。


フロア
朝日新聞の芳垣です。差間さんにおうかがいします。今日の法廷で、ご自身のご体験を元に意見陳述されましたが、お気持ちをお聞かせください。

差間正樹さん
私たちが、自分の出自というんですか、自分がいったい何者なんだろうかということで、悩んだり苦しんだりしているのはなぜなのか。子どもの時からの経験を通して、みんな、自分の子どものため、親戚のため、親きょうだいのために、黙り込んでしまう。そういったことを、何とか、みなさんの前で主張してみたいとずーっと思っていたんです。今日、サケの捕獲権をめぐって、私たちの先祖が持っていた権利をどうしてなくしてしまったのか。いま、川で魚一本捕ったって、密漁で捕まってしまいますよね。なんでこうなってしまったのか。自分の経験をみなさんの前でさらけ出して、私たちはこうやって大きくなってきたんだよということを主張してみたいと思ったわけです。

フロア
もう一点、じゃっかん裁判から離れるかも知れませんが、最近、道議会で「アイヌの権利を認めることは甘やかしじゃないか」という道議の発言が問題になりました。このことについてどのようにお考えでしょうか。

差間正樹さん
道見(泰憲・道議会議員)という人が、詳しい数字を挙げて、なんでこんな主張をしているのか、私も分からないんです。私たちがいつ甘やかされてきたのか。歴史的にもね、私たちは権利を奪われて、生業というんですか、それを海でも川でも山でも、権利を取られて……。本州から渡ってくる人の前で、何もかも奪い去られて、それで生活してきたわけなんですよ。それがなんで、道見っていう人の目に「甘やかしている」というふうに見えるのか。それはまったく分からないですね。歴史的なことをまったく考えない、不勉強のいたりだと私は思うんですけどね。


フロア
フリーライターの平田です。差間さんの陳述で、サケ捕獲の権利のことのみならず、「川に野生のサケを戻したい」と、環境のことを述べていらしたのが非常に印象的でした。もう少し詳しくうかがえますか。

差間正樹さん
サケの漁業について、みなさん新聞でもご覧になっていると思うんですが、非常に不漁が続いているんですよね。原因は、もしかしたら稚魚がうまく再生産に乗っていないからじゃないかな、と思うんです。なんでこういうことになったのか。川の状態がどうなのか。稚魚が川から海に出ていく時にどういった環境におかれているのか。もう一度、私たちは自分の足下っていうんですか、それを振り返って、私たちが今までサケの稚魚に行なってきたことをもう一度、考え直してみる必要があるんじゃないかと思っているんです。たとえば私たち(サケ漁業者)は、毎年、川に稚魚を流してきているんですけど、人工的に流した稚魚が、一回の雨で全滅状態になることもあるんですよね。ところが、それでも稚魚が次から次から川から海に向かって泳いでいくんですよ。その稚魚こそ、天然由来の稚魚なんじゃないかなと思って、川を見つめているんです。(サケの再生産過程を)全部、人工的に管理してサケを戻していくというのは、今まではよかったのかも知れないですけど、今後どうなのかなっていう議論がいま、海岸で出されるべきだなと思っております。


フロア
支援者の松本です。韓国の徴用工問題でも、日本政府は頑として植民地支配の責任はとらない、という姿勢です。この裁判もヘタをすれば門前払いになっちゃうんじゃないかと危惧しています。そこで質問ですが、カナダやアメリカなどは、国家として植民地支配の責任を認めたうえで、インディアン・テリトリーのいろんな権利を返還したということなのでしょうか。それとも、国家として植民地支配の責任は認めないまま、国内少数民族の権利を認めている、という形なんでしょうか。もうひとつ、日本が明治政府の「侵略」を認めるわけはないだろうなと思いますが、それを乗り越える手がかりが、市川弁護士には何かあるんでしょうか。秘密でなければ教えて下さい。

市川守弘弁護士
秘密じゃないです(笑)。まずヨーロッパ人がアメリカ大陸を〝発見〟した時、インディアン・トライブ──アイヌでいうコタンのような集団が、そもそも独立国家として何千も成立して、お互いに戦争もしていた、と。そこにヨーロッパ人が入ってきた時、ヨーロッパ人の国(で最初に〝発見〟した)、つまりイギリスが、フランスとかスペインを排除して、各トライブから土地を買い取る権利を持つんだ、という理解があるんです。「ディスカバリー・ドクトリン/発見の原理」と言うんだけども。その大元は、十字軍遠征のころの、ヨーロッパ人に都合のいい論理ではあるんですが……。たとえその原理の下であっても、独立国として存在していたインディアン・トライブの対内的な主権・支配、これは失われない、という大前提はありました。だから、アメリカ連邦政府は(各トライブと)条約を結んで土地を買い取っていった。そういう形でアメリカの開拓が進んでいくわけです。対外的には、たとえば「ルイジアナ買収」といって、(フランス植民地だった)ルイジアナのすごい広い範囲をナポレオンから何千万ドルで買ったとか(1803年)、アメリカ・メキシコ戦争(1846−48年)でアリゾナ・カリフォルニア・コロラドなどを取得したとか。日本が明治維新(1868年)を迎える時には、ハワイ州を除き、アラスカを含め、今のような合衆国ができていたの。できていても、そこは依然インディアンが支配している土地なの。だからインディアンと条約を結んで土地を買い取っていった。その正統性が連邦最高裁の判例でどんどん裏づけられていくわけですよ、1820年〜30年代にね。(合衆国の場合は)そもそも植民地が何かっていう定義をする必要もないわけ。インディアン・トライブとはそういう存在なんだ、という前提だからね。じゃあ日本はどうか。明治維新以後、開拓使がお雇い外国人を招聘しています。その中に合衆国政府農務局長(Commissioner in the Department of Agriculture)のホラシュ・ケプロン(Horace Capron)がいます。ケプロンが黒田清隆・開拓次官に報告書を出していて、アメリカでの白人に対する土地払い下げの法律などを紹介しています。そこには、白人に払い下げる対象地について「公有地の一区」と書いてあります。「払い下げる対象は公有地ですよ」とホラシュ・ケプロンは開拓使に説明しているんです。公有地とは何か。インディアンの土地は公有地には含まれません。インディアン・トライブと条約を結んで、連邦政府が買い取った土地を公有地、パブリック・ランドと言うんです。アメリカではどういうインディアン対策の下で白人が開拓をしていったか、インディアンから正当に土地を買い取っていかないと連邦政府の土地=公有地にはならないということを、(ケプロン報告書を受けて)開拓使はじゅうじゅう理解していた。分かっていて、それを無視したんですよ。だから僕は、「それは侵略でしょう」と(主張しています)。本来やるべきことが分かっていながら、それを無視して、一方的に「蝦夷地」を「北海道」にして、開拓使を置いて国有地化宣言して何郡何国を置いていくわけでしょ。それは一般に言う侵略でしょ、という言い方をしています。そういうことを次回、まあ北米のことを言うかどうかは分かんないけど、主張したいとは思っています。

長岡麻寿恵弁護士
弁護団の長岡です。北米で、インディアンが自分たちの持っていた土地を利用し、そこで狩りをし、漁業をし、いろんな植物を採取する権利、これは先住民族としてその地にずーっと生きてきた人たちが持っていた権利なんですね。アイヌの人たちも同じようにコタンという集団で生活し、時には漁場をめぐって争い、土地を利用し、漁をし、狩猟をし、植物を採取する、そういう生活をして、そういう権利を持っていたわけですよね。それを、市川弁護士が言ったような形で、日本の明治政府は否定し、奪ってきた。ここの事実関係、歴史をきちんと認識するかどうか、正面から認めるかどうかということが、先ほどのご質問にあった道議の「甘やかし」発言にもつながるでしょうし、今回の訴訟で、国が歴史的な経過について「認否の限りでない」と、認めるとも認めないとも一切言わない、素通りをして知らんふりをして、ほっかむりをして過ごそうとする、こういう対応にもすべて共通しているのではないかと思います。


フロア
NHKの福田です。今後、裁判体、裁判官のほうで論点整理が行なわれると思いますが、見通しについて教えて下さい。

市川守弘弁護士
かなり先の「今後」ですね(笑)。訴状ではあっさり記述したものを、いま長岡先生が言ったような、江戸時代からの歴史をこちら(原告)が肉づけして。まず、それに対して(被告が)認否するかしないか。仮に認否しないとなった時に、裁判所が認否を促すかどうか。もしここで認否を促さないとなると、裁判所もほっかむり、ってことになるんだよね。もし認否を促したとして、次に認否が出てきて、ちゃんとした反論が出て、それが終わって論点整理だから。

フロア
裁判所としては、(被告が)認否する・しないもまだ言っていないわけですから、認否を促す・促さないもこれからですもんね。

市川守弘弁護士
こっちは同じことを主張するんだと言っているから、(裁判所は)それについてどうするかを被告のほうに問う、ということだと思います。


フロア
NHKの関口です。今後、主張していくにあたって、海外の判例や文献など、軸として参考になるものはありますか。

市川守弘弁護士
将来的にはあるかもしれません。でも、来年2月の次回口頭弁論で主張したいのは、日本の歴史、アイヌの歴史なので。外国の判例は結局外国のものです。日本でどうなのか。インディアン・トライブとアイヌコタンは全然違うよ、ってなったら話になんないでしょ? だからまず「アイヌの歴史」はどうなのか(を示していきたい)。日本の学者はあまり深くは研究していないので、歴史学者も榎森(進)先生ぐらいだよね。文化人類学者も。だから大変なんです(笑)。


市川守弘弁護士
他にご質問がなければ終わりたいと思います。(会場の)顔ぶれを見ていると、いろんなところからいっぱいきていただいて、ありがとうございます。次回期日は2021年3月4日午後2時です。また30分前から傍聴券の整理が始まると思うので、1時半までには裁判所に来ていないと傍聴できません。これからもよろしくお願いします。

まとめ・北大開示文書研究会


差間正樹・ラポロアイヌネイション名誉会長の意見陳述