裁判の記録

ラポロアイヌネイションのサケ捕獲権確認請求訴訟
第7回口頭弁論後の原告団弁護団記者会見から

2022年2月17日、北海道高等学校教職員センター

ラポロアイヌネイションのサケ捕獲権確認請求訴訟

市川守弘弁護士
じつはきょう、ラポロアイヌネイションのメンバー7〜8人が(札幌地裁に)来る予定でした。しかし新型コロナウィルス感染拡大が続く中、お子さんのいる家庭が多くて、家族から「この時期に札幌に行くのは……」と心配されて。また過日、(ラポロアイヌネイション会長の)差間正樹さんのお兄さんが亡くなられて、きょうが告別式でした。そのような事情でけっきょく来れなくなってしまったことを最初にお知らせしておきます。

さて、被告=国側から、第4準備書面が出ました。ひとことでいうと、最初「何を言っているんだろう?」と思いました。私の頭のほうがどうかしちゃったかなあ、と思うくらい、こちらの主張と噛み合っていないんですね。ふつう、こういう準備書面というのは、「反論をする」って言っているんだから、こちらの主張に対して反論をする(ための書面だ)と思うし、通常、そういうのを反論と言うんです。だけど今回は、法廷で最後に私も言いましたけれども、こちらの主張と全然噛み合っていないことを(被告書面は)言っている。逆に、こちらが言っていないようなことについて、何か主張しているところがありました。

どういうことかと言うと、こちらの主張は単純で、「十勝川流域では、明治16年まで、十勝川流域にいた各集団、つまり原告らの構成員らの先祖がつくっていたコタンという集団が、十勝川で、独占的・排他的漁業権を行使していた」ということをまず、主張しているわけです。「それが明治以降、何の正当な理由もなく禁止されるに至った。正当な理由がないのであれば、もともとあった権利は、現在も(先祖の子孫の集団であるラポロアイヌネイションに)ありますよ」という、単純な主張なんですね。

それに対して、「実定法上の根拠は何か?」と向こう(被告)がしつこく言ってきたので、(原告準備書面3および4で)現在の実定法上でいえば、ひとつは慣習法、それから国際法上もあるはずですよ、さらに憲法上も認められて良いはずですよ、さらに条理っていうのも主張して、もし国際法や憲法で何も規定しないとしても、条理上、権利は認められますよ、っていうことを主張して、前回までに(原告側からの主張を)完結したわけです。

そもそも「(十勝川流域のアイヌ集団が)明治16年まで独占的排他的漁業権を行使していた」という事実を(被告は)認めるのか認めないのか。認めないんだったら、それはそれで向こうの主張なんでしょうから、こちらは歴史をひもとけばいいだけのことなんだけど。(あるいはその事実を被告が)認めるのなら、なんでそれが明治16年以降、禁止されるに至ったのか、その根拠は何なのか(を法廷で追求できます)。(しかし被告の「反論」には)そこについての認否が一切抜けているんです。今まで(原告は被告に対して)その事実関係を認めろ認めろって言ってきていて、(被告は)「原告が実定法上の根拠を示せば認否を明らかにします」と言っていたから、今回はするだろうと思ったら、それがすべて抜けている「反論」でした。

向こうの言い分は、「(内水面におけるサケ捕獲を)現行法は禁止しています」「だから慣習だろうが何だろうが、(ラポロアイヌネイションの主張する)権利は認められません」と言っています。こちらは、それを禁止している法令が問題ですよ、と指摘して、(その根拠として)ひとつは慣習法を挙げ、もうひとつは国際法とか憲法とかを挙げているんだけれども、「いまの法令上、権利は否定されている、だから国は(ラポロアイヌネイションの浦幌十勝川におけるサケ捕獲権を)認める義務はない」という言い方で逃げているんですね。だから噛み合っていないんですよ。こちらは「その法令の正当性が問題だ」と言ってるのに、(被告は)「法令があるからダメです」っていう言い方で。

もうひとつは、国際法の理解として、(被告は)「(条約によって)何らかの施策を義務づけられているわけではない」と主張しています。行政訴訟の中には「義務づけ訴訟」というのがありまして、(行政に)「○○しろ」という請求をする場合ですね。だけど(ラポロアイヌネイションは)そういう主張はしていないんです。国際法上、たとえば文化享有権とか人権規定、社会権規定で、サケをはじめとする自然資源を享受する権利は(先住民族に)すでに認められているから。そうした国際法に署名、あるいは加盟した以上は、日本の国内法をそれに沿って解釈しなければいけないのは、常識というか、当たり前のことなんですよね。なぜかというと、条約は国内法令の上位で効力を持つから。日本国憲法>条約>法律なんですよ。法律が条約に明らかに反していれば、その法律は効力を持たないというのは、国際法では当然の理解なんです。(原告は)前回、そういう主張をしたんですが、それに対して(今回の被告書面は)「義務づけられているわけではない」と。これ、日本政府は「国際法に署名したからといって、国際法の通り動く必要はない」って言っているのと同じで、これを言っちゃうと……。

単純な例を挙げると、たとえば国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議で「○○年までの気温上昇を○度以内に抑える」と決めたら、締約国はそれに従って、最低限、努力をしなければいけないですよね。国際法は、もしそれに反する法律があったら、法律を変えていかなければいけない。環境分野では当然の国際法の論理なんだけれども、(今回の被告の反論は)それを完全に無視して主張している。最初言ったように、何を言いたいのか分からない、まったく噛み合っていない、というのが今回の書面でした。
(被告から残りの反論が提出される予定の)次回は国際法(についての議論)がメインになってくるので、同じような主張をしてくるんだろうと思います。(歴史的事実に関する)認否についても、被告側は「認否が必要かどうかを次回、回答する」と言っていました。これもふざけた話なんですが、穴ぐらに閉じこもろうとする作戦のようです。どうやってそこから国をひきずり出すか、そこが今後の大きな、この裁判の事実上の争点になるのかな、というふうに思っています。


長岡麻寿恵弁護士
みなさん、ご苦労さまです。弁護士の長岡です。被告=国・道の提出した書面については、市川弁護士から報告があったとおりです。 前々回、こちらの第3準備書面では、どういう歴史経過のもとにアイヌ民族がサケを捕獲してきたか、それが長い年月の間に慣習として成立していたか、それがどのような規模の団体によって享有されていたかといった、権利の内容を具体的に主張してきたわけです。これは訴状も同じでした。

それに対して裁判所から、ちょうど1年くらい前ですけれども、(被告に向かって)「実定法上の規定がないからといって、権利がないことにはならない。(被告は)認否をしないんですか?」と言われて、その後、裁判官が交代した6月にも、「被告の認否はどうですか? スタンスは変わりませんか?」と指摘されていたわけです。

それから1年、また認否をしてこない。つまり、アイヌという民族が先住民族であると(アイヌ施策推進法1条で)認めておきながら、その人たちがどうやって暮らしてきたか、どんな権利を持ってきたか、ということに一切目をつぶって、応答しない。「そうだ」とも「違う」とも言わない。まるでアイヌなんていなかったような扱いをするわけですね。存在していないものとして扱う。ただ和人と同じように(現行法を適用して)(水産資源保護法は)「禁止規定だから」「実定法で国が禁止したんだ」としか言わない。

これは本当にもう、何を考えて先住民族の権利宣言に賛成したのか、人種差別撤廃条約を批准したのか、アイヌ民族を先住民族であると認めたのか、どういう考えでウポポイをつくっているのか、まったく理解できないとしか言いようがありません。この点に私は非常に憤りを感じます。

認否をしないのは、歴史を認めないということなんです。日本政府の考え方は、歴史認識においてずっと一貫している、ときょう、しみじみ思いました。こういう政府のあり方を問うていかなければいけない、そういう裁判なんだと思います。ただ、歴史の事実も国際的な法規範も、大義はわれわれにあると思います。みなさんのご協力でこの裁判を大きく支援いただいて、良い結果を勝ち取っていきたいと思います。


市川守弘弁護士
長岡先生がおっしゃるように、今回の国の主張、姿勢は、アイヌの存在を認めていない書面になっている。水産資源保護法とか漁業法とか、それによって(ラポロアイヌネイションの権利が)認められませんよ、というのは、「和人であろうがアイヌであろうが一律に認めない」という言い方だから、(アイヌ施策推進法で)アイヌを先住民族と認めた効果について「まったくなにもありません、和人と同じです」と言っているに等しいんですよね。これはアイヌの存在を認めないという主張です。恐ろしいなあと思ったのは、これはもう同化政策なんですよ、完全に。現行法制、サケ捕獲を禁止している法律が(先住民族の権利を)認めていない、つまり「あなたがた、和人と同じでしょ」と言っているのとイコールなんです。この主張は許されるべきではない。ぜひみなさん、そこを理解していただきたいと思います。


フロア
被告側の準備書面は公開されないのでしょうか。原告の書面やこの記者会見のようすは、開示文書研究会のサイトですべて公表されていますが、被告の書面を読めないので、支援者としては、はがゆい気持ちです。

市川守弘弁護士
法務省は、マスコミには(書面の写しを)出しているので、あえて開示請求しなくても出しますよ、という姿勢です。札幌合同庁舎の法務省まで行って、請求すれば、裁判中の事件であっても、出すはずです……。(原告が被告に代わって被告側書面を公表するかどうか)弁護団で議論します。


まとめ・北大開示文書研究会